大学へ行く。

意気込んで運転して意気込んで帰ろうとしたらロイヤルと時間が被って大学前の信号が赤のまま変わらない。で、足止めをくらって日の丸を持ったおばさんたちを横目にこの暑さなんなの。とうなだれる。


ご飯を食べていたら明らかに店にそぐわない仰々しい女の人が落ち着き無くうろうろしたり携帯を睨んだりしているので誰か待ってるのかなと思って最初はその出で立ちから私たち彼女をマダムって呼んでたんだけれど髪型が水前寺清子みたいだから水前寺って呼ぶことにした矢先待ち人が現れてそれはどこにでもいそうな50代のおばさんで彼女が席につくなり水前寺はものすごい勢いと声量で話を始めた癌の話。
待ち人の、友人だか家族だかは最近癌と診断されたと言う。水前寺の、旦那は癌で亡くなったという。でもそこには相槌程度の同情しか挟まれない。水前寺の目的は「ヘルシーデイズ」なる浄水器と「ライフエナジー」なる健康食品だかなんだかを売りつけることだった。
で、やばいねこの人騙されるんかな。とか思ってる間も水前寺の声は興奮を増して活性酸素がどうの体内の有毒物質がどうの胃がん末期のあの人はどうで糖尿病のあの人はこうで書類にはサインがいるんですえーっとあのひとのあれは200万だったかしら2000万だったかしら云々嵐のように話すこと話して最期に書類一通りとライフエナジー1箱をおばさんに渡して電話番号と次にあう日を確認してそれで二人はそれぞれに車にのって帰っていった。
昼過ぎのファミレスはおばさんが三人であんみつのスプーンの大きさに文句をつけては大笑いしたり空のジョッキの前で頬杖をついて動かないおばさんやパフェを食べながら黙々とメールを打ち続けるおばさんがいて数人の高校生がなんかの学校行事で使うのかしらん大きいダンボール余ってませんかと聞きに来るし私たちがなにかを話し始めるのなんてひどく場違いな感じがして水前寺の飲み残したコーヒーカップは片付けられないまま下品な口紅のあとが日差しを受けてえげつない。なんていうかそれは、平然と場末だった。